「病は気から」「心身相関」という言葉があるように、心と体の状態というのは深く結びついていると言われます。心配事があると「お腹が痛くなる」などの体の不調が出る事は決して珍しくないことです。口の中も例外ではなく、心の状態が良くないと、歯や口の中の異常を感じることがあります。これを歯科心身症（しかしんしんしょう）と呼びますが、この歯科心身症にはどういった症状があるのか、またその治療法について解説していきます。

歯科心身症とは

　まず心身症とは、体に何らかの症状があって、それが心の問題が原因になっている場合をいいます。そして歯科医師の診る口の中の領域に症状が出ている場合を歯科心身症と呼びますが、現れる症状はバラエティーに富み、しかも原因がなかなかわからないことから、症状が長期にわたって続き、患者さんはさらに悩み続けることになって、状態が悪化し続けることもあります。

歯科心身症にはどんな種類がある？

　歯科心身症の症状は様々です。代表的なものとしては次のようなものが挙げられます。

1.舌痛症 （ぜっつうしょう）

　歯科心身症の約半数を占めると言われ、40代以降の女性に見られることが多いものです。舌には外見上何の異常もないのに舌の強い痛みが長期にわたって続きます。痛む場所は日によって変わることもよくあります。精神的なショックや歯科治療などがきっかけになって起こることが多く、何かに集中していたり、食べている時には痛みを感じないというような特徴があります。

2.口臭（恐怖）症

　実際に口臭があるわけでもないのに、自分で「口臭がある」と思い悩む、という症状で、社会生活に支障をきたしてしまうことがあります。

3.口腔異常感（口腔セネストパチー）

　口の中に何らかの異常な感覚を感じてしまうもので、口の中は健康なのに、「口の中で変な味がする」「舌と歯がつながっていて舌が動かせない」「歯の上に何かが乗っている」「口の中に異物が出てくる」などのような様々な異常感を訴えます。口の中は常にいろいろな刺激を感じ取っています。この感覚が、あることをきっかけに異常感として感じられるようになると言われており、脳の感覚を感じ取る機能に何らかの異常が起こっていることが原因だとされています。

4.非定型顔面痛（非定型歯痛）

　歯や口の中に何の異常もないのに、痛みを感じてしまう状態です。特に歯の場合だと患者さんは「歯に異常がある」と思い込み、歯科医師に治療をするように訴えますが、治療をしても歯には問題がないため、症状は引かずに苦しみ続けることになります。

5.咬合異常感

　噛み合わせに異常は見られないのに、ある日突然おかしくなったと感じ、その感覚にとらわれすぎることで歯の感覚も過敏になり、不安が増大することで、落ち着く噛み合わせが自分でもわからなくなってしまいます。

6.顎関節症

　顎関節症の発症は心理的ストレスと大きく関係していると言われています。ストレスを感じると歯ぎしりや噛みしめることが多くなり、それが顎を動かす筋肉や顎関節の不調を招く原因となります。

7.歯科恐怖症

　歯科治療中に受けた恐怖がトラウマとなり、歯科に行くのに非常な恐怖心を抱いてしまっている状態です。そのため、歯が悪いことがわかっていてもなかなか治療を受けることができません。

歯科心身症の治療法

　歯科心身症の場合、「どこかが悪い」などと思い込み過ぎることから何らかの症状が出てくることも多いです。そのため、歯科医師より「何も異常なし」と診断されることで安心し、症状が改善に向かうケースもあります。それでも症状が改善しない場合は歯科心身症に対する治療が必要になります。その場合に行われる治療としては主に次の二つが挙げられます。

■心理療法

　歯科心身症では気になる症状に対して意識を集中しすぎているがゆえに感覚が過敏になり、症状が悪化していきます。これをカウンセリングで思考パターンなどを変えるなどしていき、改善していきます。

■薬物療法

　抗うつ薬のような精神に働きかける薬を使うことで、症状が改善するケースが多いとされています。抗うつ薬は慢性の痛みにも効果があることから、痛みを和らげる目的で使用されることもあります。

まとめ

　歯科心身症の多くは心理療法や薬物療法で快方に向かうと言われていますが、心理的なものが原因となっているため、完全に治らないケースも多いのが現状です。歯科心身症は真面目で几帳面な人がなりやすい傾向があると言われています。より良い改善のためには、症状を完全になくすことを目指すのではなく、症状にとらわれすぎず、症状との共存をある程度受け入れ、心に余裕を持つことが大切です。