歯周病は日本の成人の8割が罹患していると言われています。それはもちろん軽度の歯肉炎の方から歯がぐらついている重度の歯周炎の方まで含んでいます。近年、そんな歯周病が単に口の中だけでなく、糖尿病や早期低体重児出産、誤嚥性肺炎、動脈硬化、心疾患などの全身の健康を脅かす病気であることもわかってきています。そのように歯周病が全身の健康にも影響を与えることをペリオドンタルメディシンといいます。
歯周病と糖尿病
歯周病は糖尿病の第6番目の合併症と言われています。糖尿病は臓器のエネルギーとなる血糖(ブドウ糖)を臓器へ取り込む働きのインスリンの量や機能の障害によっておこる代謝障害です。血糖は臓器へ運ばれないため、臓器はエネルギー不足になり代謝ができなくなり、また血管内は分子量の大きい血糖(ブドウ糖)がゴロゴロいることになります。そのため、免疫システムを担う白血球の血管内の移動はブドウ糖の渋滞で難しくなり免疫システムがスムーズでなくなり、またブドウ糖は細菌のエネルギーにもなるため、感染しやすくなってしまいます。
このように糖尿病が進行すると感染症である歯周病になりやすくなってしまいます。また、歯周病は糖尿病になるリスクを上げるとも言われています。歯周病原菌の感染によって生じた炎症物質がインスリンの機能を低下させる恐れがあるからです。このように歯周病と糖尿病のお互いの病気への相関関係が注目されています。そのため、歯周病の予防や治療により糖尿病へのリスクや病状の軽減が報告されています。
歯周病と早期低体重児出産
現在の日本では出産数は減少傾向ですが、妊娠22~36Wの間に2,500g未満の低出生体重児の割合は増加傾向にあります。その原因は様々ありますが、一つには歯周病があります。歯周病になっている初産妊婦は、歯周病になっていない妊婦に比べ早産・低体重出産になる確率が7倍以上高いと報告されています。そのリスクはアルコールや喫煙、高齢出産よりもはるかに高い数字なのです。
切迫早産妊婦の羊水中から歯周病原菌P.gingvalisが検出されたことや、正常の妊婦より血清中の炎症性物質の濃度が高いことが報告されています。歯周病が原因で細菌が歯の周りの血管から侵入し、血流を介して胎盤や子宮に直接影響がある可能性と、歯周組織で生じた炎症物質が血流を介して胎盤や子宮に影響する可能性があります。
特に妊娠中はお口の手入れが悪くなりがちで、かつ女性ホルモンが上がるため女性ホルモンを栄養とする歯周病原菌の活動も活発化しやすい時期です。妊娠する前からクリニックで検診を受けたり、歯周病を治しておくことが重要です。また、妊娠中は妊婦検診や専門的なクリーニングを受けることも必要です。大切な赤ちゃんが生まれてくる前に、お母さんがキレイな口腔環境を整え、正しいオーラルケアを身につけましょう。
歯周病と誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎とは唾液中の細菌が肺に流れ込んでしまい、肺に感染して起こる肺炎です。飲み込む力や咳反射が低下した高齢者や感染しやすい方に多い病気です。
プラーク1mgに約10億の細菌がいると言われています。進行した歯周病の状態は歯周ポケットといって、歯と歯茎の間にプラークが溜まるスペースが広くまた深くなります。また、深いポケットの底では空気と触れにくくより悪い細菌が多くなりがちです。
現在の日本では、高齢者の歯の数が増えてきております。いいことなのですが、その反面、歯周病の罹患率も増えています。口腔内の細菌数を減らし、誤嚥時の肺炎リスクを減らすことが重要です。
歯周病と動脈硬化症
動脈硬化症とは動脈の血管壁が厚く硬くなる病気です。食生活や運動不足、ストレスなどの生活習慣が原因でコレステロールや中性脂肪が血管壁に付着していくことが主な原因とされていますが、別の原因の一つとして歯周病が注目されています。実際、動脈血管の硬化したところから歯周病原菌が検出されています。歯周病原菌が付着し炎症が起こることにより、更なる動脈の硬化が進行する恐れがあります。
進行した動脈硬化では、一部が剥がれ、その先の臓器の血管で梗塞が生じ知る恐れがあり、動脈硬化の進行を止めなければなりません。歯周病になっている方はなっていない方より2.8倍脳梗塞になりやすいという報告があります。
歯周病と心疾患
心臓の内側の膜や弁膜に細菌が付着し増殖することで、心臓内部で炎症を起こします。これが感染性心内膜炎という病気です。炎症が続くと心臓の動きが悪くなり、血液の流れが悪くなり、血の塊ができやすく、血栓としてほかの臓器においても梗塞が生じやすくなってしまいます。歯周病で破壊された歯周組織の血管から歯周病原菌や口腔内細菌が侵入し、心臓内膜に感染する恐れがあります。細菌性心内膜炎を発症した部位から歯周病原菌も検出されています。
健康な方で歯周病だけで起こるものではございませんが、ハイリスク(心臓弁膜症や先天性心疾患)な方は注意が必要になります。
まとめ
歯周病は感染症です。歯周病の進行によりほかの臓器へのさらなる感染の拡大が十分考えられます。しかし、歯周病は欧米では『Silent Disease静かなる病気』と呼ぶように、自分では気づきにくい病気です。しかし、歯周病が中等度以上に進行した状態は、ジュクジュクした潰瘍の面積は、手のひらのサイズと同等の面積と言われております。今、もしそのような状態であれば、早く原因となる付着した細菌を取り除く必要があるでしょう。また、そうならないように、定期的な歯周病の検診やメンテナンスによる健康な口腔内環境を長期的に維持することが重要です。
この記事の著者 杉澤幹雄先生
杉澤幹雄(すぎさわみきお)杉澤デンタルクリニック行徳 院長。東京歯科大学卒。大学在学中より歯周病の専門的治療を実践。その知識と豊富な経験を活かし、歯の土台となる歯茎や骨から健康な状態にする治療を得意とする。治療においては、患者と十分なコミュニケーションをとり、バックグラウンドやニーズを把握することを重視。それぞれの患者に合った、オーダーメイドの治療方針を組み立てることに定評がある。
所属学会・研究会:日本歯周病学会、日本口腔インプラント学会、東京歯科大学歯周病学講座非常勤講師
資格等:歯学博士、日本歯周病学会認定医、厚生労働省認定歯科医師臨床研修指導歯科医、アストラテックインプラント認定、ノーベルバイオケアインプラント認定
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ムシバラボを運営するキーデンタルクリニックは、東京の赤坂見附駅から徒歩1分、永田町駅から徒歩3分の歯科医院です。できるだけ抜かない削らない治療を心がけ、痛みの少ない治療方法や先進治療を取り入れることで患者様の負担を軽減するようにしています。良い歯医者さんと巡り会えない方は是非一度、ご来院ください。