こんにちは、キーデンタルクリニック歯科医師の若松です。今回は抜歯についてのお話をしたいと思います。
抜歯の時、多くの方は歯を抜く瞬間の痛みを心配します。歯を抜くときは麻酔をするので、そこまで痛くないことがほとんどです。歯を抜いている最中よりも歯を抜いて麻酔が切れた後の方が痛いという人も多いでしょう。
とはいっても、抜歯後の痛みは痛み止めを飲むことである程度抑えることができますし、長く痛みが続く場合でも数日経てば痛みは徐々になくなっていくのが一般的です。抜歯の痛みは、抜歯する瞬間はもちろん、抜歯後もそこまで辛くないのが実際のところだといえるでしょう。
ところが、強い痛みがいつまでたっても治らない場合があります。そのような場合、ドライソケットが痛みの原因になっている可能性があります。ドライソケットとは何なのか、また、どのような症状や原因があるのか、治療法や予防法についても詳しく説明いたします。
ドライソケットとはどんなもの?いつまで続く?
ドライソケットとは、ドライ(乾いた)ソケット(窩=あな)。つまり、乾いたあなを指しています。通常は抜歯をした後のあなには、血の塊ができ、特別な処置を施さなくても徐々にあながふさがっていきます。しかし、ドライソケットになると自然にあながふさがらず、ポッカリとあながあいて骨がむき出しになったままになってしまうのです。ドライソケットは「抜歯窩治癒不全」とも呼ばれています。
抜歯後の経過!正常VSドライソケット
本来は抜歯をした後のあなには血液が溜まり、それがやがて固まって血餅(けっぺい=血の塊)になった後、歯ぐきとなってあなが塞がり、元通りの状態に治っていきます。しかしドライソケットでは、なんらかの原因であなに血の塊ができないために治りが遅くなり、さらに骨が出てしまっていることで刺激を受けやすい状態になり強い痛みとなって表れるのです。
下の親知らずを抜いた後にドライソケットが見られることが多く、下の親知らずの場合では抜歯後の2〜4%くらいに現れるというデータもあります。ドライソケットになると耐え難い痛みが10日〜2週間、ひどい場合だと1ヶ月も続いてしまうことがあります。
こんな症状があったらドライソケットかも!
1.抜歯後2、3日経ってから痛みが増してきた
抜歯後の痛みは通常、抜歯直後がピークです。麻酔が切れた施術後2~3時間後が、もっとも痛みを感じるときだと言えます。ドライソケットになってしまった場合は、麻酔が切れた瞬間よりも抜歯後2、3日経ってからの方が強い痛みを感じるようになります。
2.痛みの程度がひどく、長引いている
痛み止めを飲んでもすぐ切れてしまう、痛み止めを飲んだのに効いているような感じがしないという症状がある場合は、ドライソケットを疑うことができるでしょう。「ちょっと痛いかも」といった程度ではなく、痛く過ぎて何も手につかないというような激痛が1週間以上続くこともあります。
3.飲食時に痛みがひどくなる
食べたり飲んだりする時に痛みがよりひどくなります。これは、ドライソケットによって抜いたところの骨が出てしまっていることにより起こります。食べ物や飲み物が神経部分に直接触れるわけですから、痛みも激しいものになると予想できます。
4.悪臭がする
ドライソケットになると、抜いたあなから悪臭がします。口臭が強くなったなと感じたり、話している相手の表情が気になったりしたときは、ドライソケットの可能性を疑ってみることができます。
5.あながポッカリと空いて白っぽい
骨が出てしまっているため、抜いたあなが大きく空いていて内部が白っぽく見えます。通常なら血の塊ができてきますので赤~濃い紫に見えることが多いのですが、白っぽい影が見えたらドライソケットの可能性を疑うことができるでしょう。
ドライソケットになってしまう原因とは?
1.血の塊を流してしまった
「うがいのしすぎ」「何か吸う動作をしてあなに吸引力がかかった」「舌でいじった」などが原因で、せっかく溜まった血の塊が剥がれてしまうことがあります。再度、血の塊が形成されれば良いのですが、そのままになってしまい、骨が出ている状態で維持されてしまうこともあるのです。
2.血の塊ができなかった
血が固まる前に血行が良くなりすぎることをしてしまった場合(飲酒、激しい運動、風呂に浸かるなど)、血が流れてしまって塊状に固まらないことがあります。
3.血があまり出なかった
麻酔に含まれる血管収縮薬の影響で、正常に出血が起こらない場合があります。血の塊の元になる血の量が不足するために抜歯部分がふさがらず、ドライソケットになってしまうのです。
4.難しい抜歯だった
とくに深く埋もれた親知らずなど、時間のかかる抜歯の場合、骨が空気にさらされる時間が長くなることがあります。このようなケースでは骨が外部に出てしまった状態で落ち着いてしまい、出血も少なくなり、ドライソケットも起こりやすくなるのです。
5.喫煙をした
タバコに含まれるニコチンには、血管を収縮させる作用があります。そのため、抜歯後にタバコを吸うと血流が悪くなってしまい、傷の治りが悪くなったり、ドライソケットを起こしやすくなったりするのです。
6.感染を起こした
抜歯した部分に何らかの感染が起こると、歯茎に炎症が起こり、血の塊が炎症によって溶けてなくなってしまうことがあります。そのため、いつまで経っても血が固まらずにドライソケットになってしまうことがあるのです。
ドライソケットになったらどんな治療をする?
ドライソケットは基本的に自然治癒します。時間が経過するにつれて徐々に抜歯部分がふさがり、出てしまっていた骨も隠れるようになります。
しかし、場合によっては、放置している間に骨炎を起こして骨を削り取らなければならなくなることもあります。そのようなリスクを冒さないためにも、ドライソケットに気付いたらすぐに治療を開始することが勧められるのです。
1.薬物治療
ドライソケットによる強い痛みに対しては、鎮痛剤で対処していきます。また、抜歯部分の感染予防に対しては抗生剤が投与されます。一定期間の治療が必要になりますので、長期的な投薬で胃腸が荒れてしまわないよう胃薬や整腸剤が一緒に処方されることもあります。
2.抜歯したあなに軟膏をつける
抜いたあなを洗浄・消毒し、軟膏を直接塗布することでドライソケット部分の治療を行います。唾液や飲み物などで軟膏薬が流れてしまわないように、軟膏を塗ったガーゼで出てしまっている骨の表面を覆って保護することもあります。
3.抜歯したあなを再掻爬(さいそうは)する
ドライソケットの自然治癒が見込めないときは、再度局所麻酔を実施し、抜歯部分の内部を引っ掻いて故意に出血させて血の塊を作ることもあります。炎症が強いと痛みを伴うことがありますので、手術後には鎮痛剤などが処方されます。
ドライソケットを予防するために自分でできること
抜歯した部分がドライソケットにならないよう、ある程度自力で予防することができます。
抜歯前
1.体調を万全にしておく
体調が悪いときや疲れが溜まっているときなどは、体の抵抗力が落ち、さまざまな感染症に感染しやすくなります。抜歯部分が感染してドライソケットに繋がってしまわないためにも、抜歯の日を万全な体調で迎えられるように体調管理をしておきましょう。
2.きちんと歯磨きをして口の中を清潔にしておく
口の中の細菌が多ければ、それだけ感染を起こしやすくなります。特に親知らずはもっとも奥にありますので、歯磨きがきちんとできていない人も少なくありません。
「どうせ抜く歯だから」と歯磨きをしないでいると、歯の周りに細菌が多く潜むようになり、抜歯と同時に感染し、ドライソケットを起こすこともあるのです。抜かない歯はもちろん抜く予定の歯も、丁寧にブラッシングをして清潔に保つようにしてください。
抜歯後
1.血が止まるまでガーゼをしっかりと噛む
きちんと血の塊ができれば血は止まり、抜歯によって生じたあながふさがっていきます。出血している間にガーゼを外してしまうのではなく、血が止まるまでガーゼをしっかり噛むようにしましょう。
2.口を極力ゆすがない
「血の味がするから気持ちが悪い」また「食べ物が入ったから取り除きたい」といって、抜歯後に水でぶくぶく口内をゆすぐのはNGです。うがいが多すぎることが、ドライソケットを起こしやすくする最大の原因と言われています。抜歯後数日は、ぶくぶく口の中をゆすぐのは避けるようにしましょう。
3.抜いた部分を触らない
抜いた部分のあなが気になって、指や舌で何度も触ってしまう人がいますが、このように何度も触れると、抜歯部分が細菌感染を起こしやすくなってしまいます。また、せっかくできた血の塊が剥がれてしまうかもしれません。気になっても触らないようにしてくださいね。
4.抜いた部分を吸わない
抜いたあなに食べかすが入ったとしても、吸い取ったりしてはいけません。勢いよく吸い取ると、抜歯部分にせっかくできた血の塊を剥がしてしまうことにつながります。
5当日は血行がよくなることを避ける
抜いた当日は激しい運動や飲酒、湯船に浸かるなどの血行がよくなることを控えましょう。血が止まりにくくなり、血の塊ができなくなる原因となります。
6.タバコを吸わない
喫煙は治りが遅くなったり、血行が悪くなったりする原因になります。抜歯後最低1週間ほどはタバコを控えるようにしてください。
ドライソケットを予防しよう
ドライソケットになりやすいのは下の親知らずです。
- 歯茎に埋もれているなどの理由で不潔になっていることが多く、細菌感染を起こしやすい
- 下顎の骨が緻密で硬いため、出血しにくい
- 硬い骨にがっちり埋まっていることが多く、難抜歯になることが多い
などの理由によって、ドライソケットになりがちです。自然にドライソケットになってしまうケースもありますが、上にあげた注意事項をしっかり守ることでドライソケットになることを回避できることも多いです。ぜひ参考にしてみてくださいね。
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